コラム

 公開日: 2016-02-25 

本拠地登録制のご提案

本拠地登録制のご提案
―― 事業所数が少なく、転勤者が少ない企業での問題点とその解消策 ――

 今回は、私が人事担当として、その解決に苦心した住宅対策(独身寮、借上げ社宅提供、住宅手当支給等)について、実践例を提示し、皆さんの参考に供したいと思います。

 まず、その会社(A社とします。)の概況を説明します。A社は、一部上場の1,500人規模の製造メーカー(B社とします。)と米国の大手化学会社との50%づつ出資の合弁会社で、半導体関連の消耗資材を製造販売しています。従業員は300人弱です。拠点は、工場が奈良県の本社工場と三重県の工場の2か所、営業拠点として、大阪と東京の2か所、計4か所で、大阪・東京の支店は、B社のビルに同居しています。また、奈良工場は、B社の奈良県の工場の一画を賃借していました。A社の従業員は、全員、親会社(B社)からの出向でB社の人事制度下にありましたが、数年前に人事・給与制度を独立させ、全員,A社に転籍となっていました。

 但し、住宅政策に関しては、独自の施設も所有していないので、独身寮等はB社の施設を共用する等、B社に準じて運営していました。ところが、親会社(B社)とは異なり、拠点が4か所しかなく、大半が、奈良県の本社工場勤務で転勤も少ない(必要性も低い)中で、次第に問題が発生してきました。

 それは、転勤者の優遇策の在り方、独身寮の入居期限(独身扱いの年齢制限)、中途採用特例の期限、東京地区の特例取扱いの是非等々にかかわる問題です。即ち、

①転勤経験者は、社宅扱い(社有の施設はないので、民間施設を借上げて提供)だが、期限がない。本人負担は、   借上げ家賃の20%程度。一方、非転勤の場合は、少額の住宅手当のみ。余りに格差がありすぎる。
②独身者が転勤先で結婚しアパートを借りた場合、転勤1回目は家賃補助60%、2回目は、東京・大阪地区は80%、   他の地区は60%と細かい内規があるが、公表されていない。一方、既婚者が転勤した場合は、社宅提供で、家賃負   担20%のみ。この差は合理的か?
③中途採用者の場合、リクルート対策の観点から、社宅扱いで住居を提供しているが、定年まで続けるのか?
④東京地区は、家賃等が高いということで、借家入居者については、地域手当が妻帯者・独身者で、それぞれ
   20,000円、10,000円支給されているが、妥当か。そもそも、関西出身者が多い会社だが、これは、東京地区出身者   が東京勤務の際に適用されるのか?

等々があるが、明文化された住宅取扱規程等がなく、全て内規扱いで運営されているため、全貌を把握しているのは、人事担当者のみとなっていました。これは、憶測ですが、個々の転勤等の事例に際し、その時の人事担当部長(場合により役員)の判断(温情)により、色々と特典を与えてきた結果、長い時間の経過の中で、全体としては整合性の取れない、規定として公式化できないものとなり、一部の者しか全貌を知らない内規扱いとなったものでしょう。
 特に、①、②の転勤者の取扱いに関しては、典型的にはこういう事例がありました。例えば、工場の技術者として採用したが、能力が低く使い物にならない。東京で、サービス・エンジニアとしてなら使えるかと転勤させたが、そこでも使い物にならず、再び、奈良県の工場に戻された。この者は、2回の転勤経験者として、住宅の扱いは優遇されるのです。それも無期限で。会社のお荷物的存在の者が、最も優遇される。これは、やはりおかしいでしょう。

 私は、A社が人事・給与制度をB社から独立させる際、その担い手として大手の鉄鋼メーカーからA社に転籍してきたのですが、当初は、独立した人事・給与制度の構築及びその運営に全力を挙げました。転勤者の住居の取扱い等福利厚生に関しては、親会社のB社に委託する形態でしたので、当初は、じっと様子を見ていましたが、次第に上記のような実態にあることが分かったのです。
 私がA社に転籍の4年後、A社の奈良県の工場は、手狭になり、県境を越えて、近くの京都府内に、新規に京都工場を新築・移転することとなりました。B社の奈良工場から、物理的に離れるわけで、これは、住宅取扱いについても、独立した運営をする絶好の契機です。何としても、この際、上記の問題点を解消できるような独自の住宅取扱い規定を構築したいと思索を巡らせました。

 その時、社員の住宅取扱いを区分する鍵として、思いついたのが、本拠地という概念です。
A社では、会社の沿革や工場の立地から、どうしても関西出身者が多いので、東京勤務は当然転勤を伴うこととなりますが、東京出身者の場合はどうなるのか、逆に関西での勤務が転勤状態ではないのか等々考えると、そこには暗黙の裡に、「この人の本拠地は東京」などという思いがあることに気づきました。この本拠地というものを、漠然とではなく、きちんと申請・登録するようにすれば、複雑な方程式を解く重要な鍵になるのではと考え、更に検討を深めました。

 その結果、考案されたのが、これから紹介する「本拠地登録制」です。社員は、総合職で30歳未満の独身者を除き、必ず本拠地を登録することとし、①勤務地が本拠地であるか否か、②転勤経験があるか否かの2つを基準として、住宅の取扱いの基本を決めるという方式です。30歳未満の総合職を除いたのは、リクルートの観点から、「独身寮(または代替施設)」の提供を約束しているからです。

 2つの基準で縦横の升目を作ると次の4つのゾーンに分かれます。
 即ち、Aゾーン=「本拠地勤務で転勤経験あり」、Bゾーン=「非本拠地勤務で転勤経験あり」、Cゾーン=「本拠地勤務で転勤経験なし」、Dゾーン=「非本拠地勤務で転勤経験なし」。

 この4つの区分について、次の基本的考え方をベースに具体的取扱いを決めます。
①本拠地勤務か否かでまず区分し、本拠地勤務の場合は「住居は自己手配」を基本とする。
②非本拠地勤務の場合は、住居は「会社が提供」を基本とする。
③その上で、その勤務地になった理由を転勤の有無で区分し、本拠地勤務でも転勤経験ありの場合は、
   住居賃借契約に伴う礼金等必要経費の相当部分を補助することとする。
④本拠地勤務で転勤経験なしの場合は、全て自己の負担で住居の手配をする。
⑤非本拠地勤務で転勤経験なしの場合は、中途採用者以外該当しないが、現在行っている
   社宅扱いは、一定の年限を設け、それ以降の例外取扱いは廃止する。

 A~D各ゾーンの具体的取扱いの詳述は省きますが、上記の原則で、あらゆる事由での取り扱いがすっきりと
整理できます。

 具体的に実施するに当たっては、一般職の社員が転勤に応じた場合の本拠地の取扱いや、一度登録した本拠地の
変更の取扱い等詳細の詰めが必要でしたし、現在「社宅扱い」を受けていた者が「自己手配」に移行すると、急激に負担増加になりますので、一定期間の緩和措置を講じるなどきめ細かい調整が必要でした。
 制度移行後、もう10年にもなりますが、後輩からは、特に大きな問題もなく、この制度が運営されているように聞いています。

 世の中には、転勤者の優遇策を中心に社員の住宅取扱いの在り方で悩んでいる企業は多いのではないかと思います。この事例が、各社の参考になれば幸甚です。
 
 
 特定社会保険労務士   坂本 公則
E-MAIL:sakamoto-jksrj@kcn.jp
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