コラム

 公開日: 2016-01-28  最終更新日: 2016-02-25

賃金支払い日と賃金支払期間(賃金締日)との対応について

年も改まり、来年度の経済成長率はどうなるか、その前提として個人消費は何%伸びるか、
その為には、何%の賃上げやベースアップが必要かというような議論がなされる時期となりました。こうした中で、
人事制度や賃金制度の改訂も脚光を浴びています。

 賃金制度の改訂を検討する際、意外と盲点になるのが、賃金支払い日と賃金支払期間、即ち賃金締日との対応関係です。賃金制度を一から作る場合は、基本的な項目であり、重要視されますが、既にある制度の改訂では、
賃金項目の構成や、その昇降(運営)方法は制度の根幹にかかわる事項であり、その内容が注目されますが、
賃金締日や賃金支払い日などは、つい、従来通りということで、見過ごされがちです。
 というのは、賃金締日や賃金支払い日を変えるとなると、未払い分の精算や、過払い分の調整など、
社員個々人の収入のリズムが変更になることへの個別の対応の外、会社の資金繰りにも影響が及ぶ可能性があり、
余程のことがない限り、現状通りとなりがちだからです。

 しかし、少し工夫をすれば、賃金支払い日や賃金締日の変更は、大きな混乱もなく行えます。
今回は、私が関与した2社について、その事例を紹介します。

1.200人規模の電炉メーカーでの事例
(1)従来の方法と問題点 
  既に、30年ほど前の話になりますが、この会社(以下、A社とします。)では、賃金支払期間(賃金締日)と
  賃金支払い日とは、次の通りとなっていました。 
   賃金支払期間:前月16日~当月15日 (毎月15日が賃金締日)
   賃金支払い日:当月25日(金融機関の休日に当たる場合は繰り上がる)
  <問題点>
①賃金締日と賃金支払い日の間隔が10日間と短いため、事務処理が大変であった。当時は、まだPCも普及してい  なかったので、A社では、給与計算は、近くの計算業者に外注していました。支払いは銀行振り込みで現金の袋詰め  は不要でしたが、銀行には、支払い日の3日前には、データを持ち込む必要があり、勤怠の集計、そのデータ及び
  計算結果の計算業者との往復の移送時間等を考慮すると、殆ど余裕のない日程で、特にお盆休暇のある8月などは  綱渡りの状況であった。
②A社は、コスト管理に厳しいことで定評のある会社だったが、労務コストに関しては、中途半端であった。即ち、
  原料のスクラップの購入コストや、電気代のコストに関しては、月単位は勿論、日々のコストもその増減をトレース
  していたが、労務コストになると、例えば、8月払いのコストは、7月後半分と8月前半分の合計であり、厳密な
  管理ができていなかった。しかも、決算期末には、未払金の計上が必要であり、面倒な処理を余儀なくされていた。
   
(2)解決策とその実施方法
  こういう状況下で、丁度その頃、給与計算の社内電算化が、検討されていました。当時、PCはまだ普及せず、
小さい会社では、中型のオフィス・コンピュータ(オフコン)が使われていました。
 A社でも、生産・販売管理用にオフコンを導入するプロジェクトが進められており、サーバーの余裕容量を活用して、
給与計算も社内化しようという計画です。このシステム設計の段階で、私はこの問題に関与することになりました。
 前述のように、従来の賃金締日では、種々問題があり、この給与計算の社内化を契機に、何とか一挙に問題の
解消を図ることとしました。
<変更後の賃金締日と賃金支払い日>
①賃金締日を毎月末日とする。(賃金支払期間を暦月単位とする。)
②賃金支払い日を、毎月15日とする。
     賃金締日の後、15日あるので、支払準備の余裕ができる。(5日間の増加) 
     毎月15日支払の賃金は、前月の労務コストとして、きっちり管理ができる。
 
 <問題点と解決策及び実施上の工夫>
①切り替え月において、給与が半月分になる。
     例えば、10月払いから切り替えるとして、9月25日に9月15日までの1カ月分を支払うが、
     次は10月15日に支払うこととなり、その対象分は、9月16日~30日までの半月分なので、
     支払額=受取額が半月分となる。
     (社会保険料等の法定控除は1ヵ月分とすると、手取りベースでは、半分以下となる。)
   そこで、この問題を解消する施策として、次の措置を講じることしました。
②半月分を全員、自動的に融資し、1月分の支給とする。融資分は、3年内で分割返済とする。
     厳密に言うと、前月の支払い日から20日後に、当月の給与を支払うので、不足分は、5日分だけというような
     議論もありましたが、会社の都合で、社員に迷惑はかけられないとの観点から、
     半月分(15日分)を上乗せし、それを支給してしまうと過払いになるので、融資という形にしました。
③  融資分の返済は、例月給与のみ、賞与のみ、例月給与と賞与の組み合わせ、繰り上げも可と
   何でもありとしました。

 社員の既得権というか、利益を尊重すれば、返済は「退職時一括」などという選択もありえたのですが、
これは採用しませんでした。というのは、私が最初に属した大手鉄鋼メーカーで、「移行時融資金」として
これを実施していて、当時は紙ベースで残高を管理していたため、その管理に四苦八苦した経験があるからです。
 実態としては、次の賞与時に一括返済する方が多く、3年間フルに掛かった方は殆どいなかったように思います。

(3)まとめ
   A社では、同時期に、人事制度・給与制度の改訂を実施しており、この賃金支払い日、
   賃金締日の変更は、ついでに行ったという位置づけでしたが、丁度バブルがはじける直前の好景気が
   持続している時期でもあり、特段の混乱もなく、スムーズに移行できたと自負しています。

2.1,500人規模の化学製品メーカーでの事例
(1)従来の方法と問題点
  これは、10年程前の話ですが、この会社(以下、B社とします)では、賃金支払期間
 (賃金締日)と賃金支払い日とは、次のようになっていました。
   賃金支払期間:前月11日~当月10日 (毎月10日が賃金締日)
   賃金支払い日:当月25日(金融機関の休日に当たる場合は繰り上がる)
  <問題点>
①賃金締日と支払い日との間隔が15日間あるため、A社より日程に余裕はありましたが、
    盆休みの時期は、長期休暇の習慣もあり、やはりタイトでした。
②当月支払の賃金は、前月11日~当月10日の分であり、前月分が2/3、当月分が
   1/3とコスト管理が正確にできない、正確にやろうとすると事務処理が煩雑になる
   という問題がありました。
③更に、売上高・生産実績の把握、更には決算等、会社の業務が基本的に暦月単位
   で行われる中で、給与計算との絡みで、人事異動だけは「基本的に11日付」で実施せざるを得ず、
   齟齬をきたしていた。

(2)解決策とその実施方法
  B社では、私は親会社(B社)と米国企業との50%づつの合弁子会社に属していたため、この問題は直接の担当では  なかったのですが、A社での体験もあり、何とか賃金締日の変更=賃金計算期間の暦月化を実現させようと、
  「移行案」をB社の担当者に提示して働きかけました。その結果、多少の紆余曲折はありましたが、下記の内容で、
  変更することとなりました。
<変更後の賃金締日と賃金支払い日>
①賃金締日を毎月末日とする。(賃金支払期間を暦月単位とする。)
②賃金支払い日は、毎月25日で変更なし。
③これまでは、完全後払いであったが、今後は基本給等固定部分(以下、固定部分という)は前払い、
   残業手当等勤務実績に基づくもの(以下、実績分という)は後払いとする。

 <問題点と解決策及び実施上の工夫>
①問題は、移行月の処理ですが、次の通りとすることで解決しました。
    10月に切り替えたのですが、支払い日は変更なしなので、先ず従来方式での9月11日~10月10日(1ヵ月)分
    の固定部分及び実績分、更に10月11日~10月31日分の固定部分を10月25日に支払います。
    11月支給分は、11月1日~30日の固定部分及び10月11日~10月31日の実績分の合計となります。
    12月以降は、完全に新方式となります。
②更に、社会保険料の控除を「前月分当月控除」から、「当月分当月控除」に切り替えました。
   移行月の10月は、従来方式では、9月分の社会保険料の控除ですが、10月分も併せて控除することにしたのです。   11月以降は11月分を11月支払分からというように、当月分当月控除となります。当月分当月控除としたのは、
   定年退職時等月末日が退職日になり、その月分の社会保険料の控除が必要となりますが、こうしておけば、
   退職時の精算等が不要になるからです。
   また、10月給与では、2カ月分の社会保険料が控除されることになりますが、給与も凡そ5/3か月分あるので、
   特に問題は生じません。
③この方式の場合、社員の側には特に不都合は生じません。問題は、会社側で、固定部分の約2/3か月分、
   給与支払額が増加することです。ただ、B社は、一部上場の老舗企業で、業績も極めて堅調でしたので、
   会社が全て飲み込んでくれました。融資の措置だとか、その返済のルールはとか検討する必要はなかったのです。

 以上、私が関与した2社の事例を紹介しました。切り替え時にちょっとした工夫が要りますが、そんなに難しい課題でもないことがお分かりいただけたと思います。要はやる気です。
    
特定社会保険労務士   坂本 公則
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