コラム

 公開日: 2015-02-27 

御社の通勤交通費は大丈夫ですか?(2)

前回、マイカー通勤がほぼ100%の環境下で、公共交通機関利用を前提とした定期券代支給方式により、いわゆるガソリン代相当額支給の「通勤補助費」方式の場合に比し、最大で月額3万円も不当利得の差が出る2社の事例を紹介しました。一般的に、ガソリン代の方が定期券代よりも安いので、誰も通勤に要する実費よりも余分に通勤手当を支給されているが、その得する度合いが、住居の場所により、最大3万円にも達し、それが不合理だというものです。

 勿論、2社ともその不合理には気付いており、何とかしたいとは考えていましたが、単純に制度を、通勤補助費方式に切り替えれば、従業員サイドからすれば、「名目は何であれ、月額給与が、一方的に減らされる一種のベースダウン」であり、軽々には応じられません。

 2社のうち、前者の鉄鋼工場では、この問題以前に、① 定期昇給の制度がなく、不適正な賃上げを永年重ねた結果、年齢別の給与カーブが極めて歪になり、中堅~若年層の落ち込みがひどく、早急に是正を必要としている。② 資格制度が年功的で本来の機能を果たしていない。③ 家族手当・住宅手当・皆勤手当など、諸手当が多く、その存在意義が不明のものも多い。等々抜本的な人事・給与制度の改定が必至の状況にありました。

 これらの問題を一挙に解決するには、どうしても一定の財源が必要になります。①の中堅層の給与カーブの落ち込みの是正、②の資格制度の見直しも単に人事考課等の適正化だけでなく、職能資格給の増額、③の諸手当の改廃 ①、②は新たな財源が必要であり、③は諸手当の改廃に伴う個人の増減収の補償が必要となります。

 そこで、この通勤手当の計算方式変更に伴う通勤交通費の大幅減額の分をこの人事給与制度の改訂に必要な財源に充当することとしたものです。勿論、その財源だけでは不足しますので、不足分は、会社の方で、追加拠出しました。

 後者の化学工場の場合も、似たような状況で、① 職能資格制度は導入済みであったが、年功的要素が多く、能力に比し給与が高くなりすぎ、引き下げ又は昇給停止を必要とする者が多発する状況にある。② 家族手当・住宅手当など能力・成績主義に反する手当が残っている。
等々で、職能給の改定(年功要素を圧縮し、能力・成績要素を拡大する。)諸手当の廃止には、相応の財源が必要とされます。

 そこで、ここでも、通勤手当の計算方式を変更し、それに伴う通勤交通費の減額分を、人事給与制度改定の財源に充当することとしました。

 ここで重要なのは、個人個人の増減収への対応です。上記の2社とも、財源的には、通勤手当で多めに払い過ぎていた分を他の職能給等の基本給へ振り替えただけ(一部、会社として落ち込み是正のため、意図的に財源拠出の部分はありますが)、とも言えますが、従業員個々人にとっては、大変動を伴います。従業員全員平均では、ゼロ又は増加でも、個々人では、減少になる者も相当数発生します。

 いかに、「今までが払い過ぎだったのだから、やむを得ない。理解しろ。」などと言われても、現実に月々貰う給与額が減少するのは、納得されません。

  そこで、考えたのは、調整給という仕組みです。簡単に言えば、増減収を1年でなく、何年もかけて経過的に実施する緩和策です。例えば、3年間の経過期間を置くとして、制度改定の結果、12,000円の減収になる場合、1年目は8,000円、2年目は4,000円、3年目は0円の調整給を支給することとすれば、1年毎の減収は4,000円ということになります。定期昇給が仮に毎年3,000円もあれば、実質的な減収は、1,000円/年ということになります。

 勿論、これは、減収者だけでなく増収者にも適用できます。12,000円の増収になる場合、1年目は、-8,000円、2年目は-4,000円、3年目は0円の調整給を支給することにすれば、1年毎の増収は、4,000円ということになります。

 更に工夫をするならば、減収者に特に配慮して、減収者の経過期間は5年、増収者は3年という風に、減収者の経過期間を延長することもできます。それだけ、1年毎の影響額が小さくなり、受け入れられやすくなります。勿論、会社としては、本来の額への定着がそれだけ遅くなり、その間余分な財源が必要となりますが、制度改定という大きなプラスのためには、わずかな代償と言えるでしょう。

 以上、通勤交通費というどの会社にもある給与項目で、結構不合理が潜在していること、その解決策として、その財源を人事制度・給与制度の改定に必要な原資に充当すること、その過程で生じる個々人の増減収への影響は、調整給を用いて経過的に行うことにより緩和できることなどを説明してまいりました。

 通勤交通費に限らず、人事・給与制度は何か変えようとすると、必ず、個々人の給与の増減収という問題が発生します。そのことが支障となり、制度改定になかなか踏み出せないこともあると思います。ここで紹介した手法が、こうした課題への対処策として参考になれば、幸いです。

 特定社会保険労務士   坂本 公則
E-MAIL:sakamoto-jksrj@kcn.jp
URL:http://www.sakamoto-jksrj.net

この記事を書いたプロ

坂本人事企画社労士事務所 [ホームページ]

社会保険労務士 坂本公則

奈良県生駒市喜里が丘3丁目3番24号 [地図]
TEL:0743-73-3348

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

1
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
業務内容

◇人事給与制度の構築・改正各従業員の能力・働きぶりと各人の給与が見合っていますか?年齢別の給与カーブは適正ですか?諸手当は正しく運用され、必要な人に適切...

 
このプロの紹介記事
坂本 公則(さかもと・きみのり)さん

長年の企業での経験を生かし、実践的な解決策を提示します(1/3)

 奈良県生駒市内に2013年、「坂本人事企画社労士事務所」を開いた坂本公則さん。企業での人事労務部門の業務経験は40年以上にわたり、まさに筋金入りの人事労務のプロです。「理屈だけで組み立てるのではなく、実際に企業で培った経験をもとに、課題...

坂本公則プロに相談してみよう!

読売新聞 マイベストプロ

長年の企業での人事労務業務の経験から実践的な解決策を提示

会社名 : 坂本人事企画社労士事務所
住所 : 奈良県生駒市喜里が丘3丁目3番24号 [地図]
TEL : 0743-73-3348

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

0743-73-3348

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

坂本公則(さかもときみのり)

坂本人事企画社労士事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
配偶者控除の改革論議に思う

配偶者控除の改革論議に思う―― 給与体系(家族手当・住宅手当)の見直しも必要か ―― 政府税制調査会では...

[ 給与体系改訂(家族手当・支給条件) ]

マイナンバー制度は予定通り実施すべき

―― 公平・公正な社会保障・税の実現には不可欠な制度 ――■マイナンバー制度は行政の効率化、国民の利便性向...

[ マイナンバー制度 ]

本年度中小企業の賃金の引上げ状況に思う(1)

先日、経済産業省が「中小企業における賃上げ状況に関する調査結果」を発表しました。調査は、今年6月に全国の中小...

[ 賃上げとベースアップの違い ]

本拠地登録制のご提案

本拠地登録制のご提案―― 事業所数が少なく、転勤者が少ない企業での問題点とその解消策 ―― 今回は、私が...

[ 福利厚生・住宅取扱規定 ]

賃金支払い日と賃金支払期間(賃金締日)との対応について

年も改まり、来年度の経済成長率はどうなるか、その前提として個人消費は何%伸びるか、その為には、何%の賃上...

[ 給与制度 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ