コラム

 公開日: 2015-01-08  最終更新日: 2015-02-27

御社の通勤交通費は大丈夫ですか?

今回は、通勤交通費について考えたいと思います。「通勤手当」とも呼ばれるように、これは給与の各種項目(手当)の一種です。よく誤解されていますが、通勤交通費は、各会社・団体が独自に決めていい給与項目です。即ち、不支給=支払わない と決めても、一律2万円 などと決めても、構いません。各社独自に決めることができます。ただ、いまどき「通勤交通費も支給しない。」となると、採用条件として不利になるので、大半の会社が、「通勤交通費:実費支給、又は定期券代支給」としていると思います。支払方法としては、大企業などで、総務部門が充実しているところでは、定期券を会社が購入して、現物給付として社員に支給している会社も一定の比率であると思いますが、大半は、給与に合算しての現金支給だと思います。

 その際、何を以って「実費」又は「定期券代」とするかが、実務上は問題となります。
東京などの大都市圏では、電車など公共交通機関による通勤が大半で、どのルートが最短時間か、どのルートが最安料金か、それは会社が決めるのか、本人の選択を尊重するのか、などが争点として考えられます。ただ、これは、会社がルールとして決めればよいことで大きな問題とはなりません。

次に、地方の工場勤務などで見られるいわゆる「マイカ―通勤」です。公共交通機関が未整備で、或いはあっても本数が少なく、従業員のほぼ全員が、乗用車又は自転車・単車で通勤している事業所の場合です。この場合、ガソリン代相当額を、通勤補助費などと称して支給することが多いようです。ガソリン代相当額を計算するには、通勤距離、出勤日数、燃費、ガソリン代単価それぞれをどう算定するかが課題となります。通勤距離については、1㎞単位の実測距離によるか、2~5km、5~10kmというような距離区分によるかどちらかでしょう。
また、出勤日数は、実日数ではなく、月間所定日数による方が、計算が簡便です。
燃費は、ハイブリッドカーなどの普及により年々向上しているので、その設定が難しいですが、どのぐらいの排気量の車種を前提とするか、また年々の性能の向上をどの程度の頻度で見直すかなどが、検討課題となります。
ガソリン代単価は、これこそ変動が激しいので、一定の期間毎に(たとえば3月毎に)、地域の平均の小売価格(インターネットで検索可能な指標による)などにリンクするような方式が考えられます。
自転車・単車などの通勤補助費については、乗用車との比率をどう設定するかがポイントとなります。ガソリン代相当額という観点だけなら、相当低い比率になりますが、あまり遠距離は想定されないので、割り切って「50%」という設定もありうるでしょう。

最初に述べましたが、通勤交通費の支給は、法律で規定されてはいません。支給しなくても、一律10万円などと多大に支給しても、構いません。ただ、課税の観点から、公共交通機関利用の場合とマイカー通勤の場合とで、基準は異なりますが、基準額以上の部分については、所得税が課税されます。

以上、通勤交通費について、極めて一般的、常識的なことを述べて参りましたが、実際の運営面では、かなり仰天するようなことが行われています。

それは、「実態はマイカー通勤しているにもかかわらず、通勤交通費をガソリン代相当額でなく、公共交通機関利用による場合の定期券代で支給している。」ケースが、まま見受けられるということです。私は、会社員時代、勤務先のグループ会社など、延5社の人事給与制度の制定・改定を手懸けましたが、そのうち2社で、そういう運営を行っていました。

一つは、地方にある鉄鋼工場で、大阪が本社の企業が、地方に新規立地してできた事業所です。大阪の本社工場では、大半が公共交通機関利用でしたので、定期券代を支給していましたが、それをそのまま、100%全員がマイカー通勤という交通事情にもかかわらず、地方の工場にも適用したものです。
 もう1社も同じようなもので、近畿圏に本社工場がある会社が、地方の工業団地に新規立地した化学工場で、全くの山間地で、マイカー通勤以外ありえないところで、本社の制度をそのまま持ち込んだものです。この会社は、もともと大阪市内に工場があり、手狭になったので、近郊の県に工場を移転したという経緯があり、そこでもかなりの割合でマイカー通勤者がいたので、定期券代支給方式はかなり問題含みだったのですが、新規立地先では、いよいよ問題が顕在化したわけです。

 何が問題かというと、「通勤交通費の過払いによる不公平(格差)」が大きすぎるということです。最初の地方にある製造工場の例で言うと、主な公共交通機関は、JRしかなく、その距離による定期券代の算定では、マイカー通勤の場合のガソリン代相当額の約3倍にもなりました。即ち、ガソリン代が1.5万円のところ、定期券代では4.5万円、差し引き3万円は過大に支給となります。一方で、ごく近くに居住していて、ガソリン代では0.5万円、定期券代では、1万円の場合、差し引き0.5万円の過大支給となります。どちらも過大支給ですが、過大の度合いが、「3万円:0.5万円」、一方が,2.5万円も得をすることになります。これが、20数年前の地方工場でのことです。当時、高卒の初任給が、10万円程度だったと思います。この中での、2.5万円の格差です。能力主義が必要だ、成績によって昇格・昇給に格差を、などと当時でも能力主義の導入は叫ばれていましたが、こんな不合理な格差を放置したままでは、能力主義もへったくれもあったものではありません。
 2つ目の工業団地の工場の事例は、最初の事例から20年近く経っていましたが、全く事情は同じです。工場は山間部にあり、マイカーで行けば20分程度の距離なのに、公共交通機関利用となると、ぐるっと湾岸線を迂回するルートしかなく、時間的には2時間近くかかります。それでもそのルートで、定期券代を計算し、支給していたのです。最大の場合で、過大支給の割合は毎月3万円、最小の者との不合理な格差は、2.5万円に達していました。

 何度も言いますが、通勤交通費は、各企業が自由に決められます。実費に対し、何倍払おうと各社の自由です。しかし、どこに住んでいるかという偶発的な要素で、毎月2万円も3万円も利益を受ける金額が違うのは、どう考えても不合理です。

 私は、早速この不合理の解消に取り組みました。勿論、方向は、「通勤補助費=ガソリン代相当額支払い方式」の導入です。ただ、単純に計算方法を変えるだけでは、従業員サイドから見れば、大幅な給与の減額になります。労働組合も簡単には引き下がりません。
 どうしてこの難問を解決したかは、次回に詳述しますが、通勤交通費というどの企業でも支給している給与項目で、このような問題を抱えているところは、私の少ない体験からですが、案外多いのではないでしょうか。次回をご期待ください。


特定社会保険労務士   坂本 公則
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