コラム

 公開日: 2014-10-21 

臨時労働保険指導員を体験して

 本年も、昨年に続き、労働基準監督署の臨時労働保険指導員を委嘱され、8月11日から9月10日まで、1か月間、その業務に従事しました。以下はその体験をもとにした感想です。

 事業主や総務部門の方は、御存じだと思いますが、労働者を一人でも雇用している法人や個人事業主は、労働保険料(労災保険料及び雇用保険料)について、毎年、6月1日~7月10日に前年度の確定分と当年度の概算払いを申告し、保険料を納付しなければなりません。これを年度更新と言います。

 期限内に申告しない法人や個人事業主(以下、事業主で総称します)に対しては、労働基準監督署は、7月末には、ハガキの督促状を出しますが、8月10日時点で未申告の事業主は、毎年、相当の比率になります。

 都道府県の労働局や傘下の労働基準監督署では、総力を挙げて、申告・納付の督促を行いますが、年に一度の集中業務のため、とても人手が足りません。

 そこで、専門家としての社会保険労務士を「1ヵ月間の臨時労働保険指導員」に委嘱し、
「労働保険の申告を催促し、必要により、申告書の作成を指導し、保険料を納付させる。」
こととしているものです。

 奈良県の例では、今年、労働局・3労働基準監督署併せて、19名が委嘱を受けました。
一人平均で約30数件の割り当てとなります。

 具体的な業務としては、最初に会社名・事業主名、住所、電話番号を記載した未申告事業主の一覧表を貰いますので、まず、電話をして、「年度更新の期限が過ぎており、大至急、申告・納付のこと。必要なら、申告書の記入も手伝います。」と要件を伝えます。

 ところが、これが、なかなか簡単ではないのです。まず、どうしても電話が通じないところがあります。いつ掛けても留守で出ない所や、中には、契約が切れて「現在、使われていません。」所もあります。

 こういう所には、住所を頼りにナビで検索して現地を訪問調査しますが、倒産や閉店で、転居先不明の場合や、昼間は誰も居なくて夜だけ活動しているとか、届出電話番号が間違っていたとかの事例もあります。

 また、電話が通じても、「その件は、顧問の税理士に任せているから、言うときます。」と他人任せの姿勢や、「わかりました。今週は忙しいから、来週中には、行きます。」とか返答はいいが実行が伴わず、1週間後に確認しても、同じ返答が続き、埒が明かないこともあります。

 中には、自分から、この手続きをする気が全くなく、「放っておけば、臨時の指導員が来てくれて、申告書を作成してくれる。それを受けて、金融機関で必要額を振り込めばいい。」と毎年、この指導を当にしている事業主もいます。

 そんなこんなで、1ヵ月は瞬く間に過ぎます。私が、今年委託を受けた31件の任務終了時点(9月10日)での集計結果は次の通りでした。

 ・申告書作成提出・保険料納付済み    23件(74%)
 ・要件伝達終了、未申告・未納付      5件(16%)
 ・倒産・閉店により連絡つかず       3件(10%)

 この結果は、監督署の担当官によれば、非常に優良な結果ということで、「来年も是非やってほしい。」とお褒めの言葉を頂戴いたしました。

 業務を遂行していく中で、痛感したのは、「未申告・未納付者には、延滞金などの何らかのペナルティが必要。」ということです。今の制度では、7月10日の申告期限に何か月遅れても、それだけでは、一切ペナルティがかかりません。

 延滞金は、申告し納付額が確定した後で、期限までにその金額が納付されない場合に、その金額・日数に応じてかかりますが、「未申告で、納付額が未定なので、遅延にはならない。」ということのようです。

 しかし、これでは、期限通りに申告し、納付している大多数の事業主との公平性が保たれません。臨時労働指導員の委嘱には、当然、相応の委託料がかかり、全国規模では、相当な金額になるはずです。この金額は、本来、申告・納付が遅れた者が、ペナルティとして負担すべき
ものです。

 どういう基準で延滞金を算出するか等、立法技術的な問題もありますが、今の仕組みのままでは、臨時指導員として「申告・納付を催促するとしても迫力(武器)がなく、懇願するしかありません。」し、また、未申告・未納付者としても、「急いで申告・納付をしなければいけないという動機付けがない。」のです。

 任務終了時に、労働基準監督署の担当官にも申し伝えましたが、政策当局の立法の工夫を期待したいと思います。
 
 また、事業主の皆様には、くれぐれも労働保険に限らず、社会保険料などについて、未納や遅延など発生させないよう、この場をお借りしてお願い申し上げます。

特定社会保険労務士   坂本 公則
E-MAIL:sakamoto-jksrj@kcn.jp
URL:http://www.sakamoto-jksrj.net

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