コラム

 公開日: 2014-09-21 

本年度中小企業の賃金の引上げ状況に思う(3)

 前回、賃上げに関して、「ベースアップと定期昇給とを峻別すること。」の大切さを説明し、事例として、「定期昇給の仕組みのない中で、長年ベースアップを続けた結果、年齢別の給与カーブが歪になった会社」を紹介しました。

 この会社の事例は、定期昇給の仕組みがなかったことが最大の要因ですが、更に言えば、ベースアップの仕方・方法が適切でなかったことも大きな要因です。

 ベースアップとは、従業員の「給与カーブを一定のルールで上方に押し上げる。」、「給与額表・昇給テーブルを一定のルールで増額改訂する。」ことですが、問題はこの「一定のルール」です。

 「一定のルール」とは、一般的には、公正・公平な方法ということになりますが、何が、「公正・公平」かは、見方によって異なってきます。以下、具体例で説明します。

 従業員3人の会社があり、それぞれの年齢・月額給与は次の通りとします。
  A:20歳、20万円
  B:30歳、30万円
  C:40歳、40万円

 この会社では、定期昇給の仕組みがないので、毎年、ベースアップで賃上げをすることとします。毎年の平均(従業員一人当たり)賃上げ額を1万円と仮定します。

 この時、ベースアップの方法として2つのケースを想定します。
① 全員同じ割合(同率)でベースアップする。
② 全員同じ額(同額)でベースアップする。

<ケース①>
  毎年、同じ財源(平均賃上げ額)だとしても、3人の平均給与額が上がっていくので、賃上げ率としては、逓減していきます。少し複雑な計算になりますが、試算すると、10年後、20年後、各人の月額給与は次の通りとなります。

  ケース① [月額給与の推移] 単位:万円
現在の給与 10年後 20年後
A20.00 26.67 33.33
B30.00 40.00 50.00
C40.00 53.33 66.66

<ケース②>
全員、毎年、1万円ずつの増額ですから、計算は簡単です。  

  ケース② [月額給与の推移] 単位:万円
現在の給与 10年後 20年後
A20.00 30.00 40.00
B30.00 40.00 50.00
C40.00 50.00 60.00

 この結果を、皆さん、どのように考えますか。
 まず、常に3人(社員全員)の平均値にあるBについては、定率でも、定額でも結果は同じになります。

定率(ケース①)では、その時点で月額の大きいCが最も有利になり、逆に小さいAが不利になります。
(C/A:2.0――>2.0、金額差:20――>33.33万円)

定額(ケース②)では、定率とは真逆で、その時点で月額の小さいAが最も有利になり、逆に大きいCが不利になります。 (C/A:2.0――>1.5、金額差:20――>20万円)


このどちらのケースが、より公正・公平かは、見方により、立場により、また、消費者物価の物価の上昇率などの経済環境により、異なってきます。

若くて勤続年数の短いAの場合は、定額が有利ですが、20-30年後は、通常はCの立場になるわけであり、その時点では、定額は不利になります。

また、物価上昇の激しいインフレになれば、現在の月額に比例する定率の方が、より公正・公平な方式と見られるでしょう。

現実のベースアップは、これらの要素を考えながら、定率と定額のウェイトを調整する折衷方式とすることが、望まれます。

マスコミ報道等では、ベースアップの水準(金額)ばかりに焦点が当てられがちですが、上記の試算例に見るごとく、ベースアップの方式如何で個々人への影響は大きな差が生じます。金額だけでなく、配分の方法にも、もっと関心を持つべきだと思います。

特定社会保険労務士   坂本 公則
E-MAIL:sakamoto-jksrj@kcn.jp
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