コラム

 公開日: 2014-09-05  最終更新日: 2015-09-07

本年度中小企業の賃金の引上げ状況に思う(2)

 前回、賃上げとベースアップ、定期昇給は、それぞれ別のものであり、峻別して理解し運用することが大切と記しました。「何を今さら、そんな基本的なことを。」という方は、この稿は読み飛ばしていただいて結構ですが、世間には、その峻別(区別)が理解はできていても、運用がうまくできず、悩んでいる企業は多いと思います。

 教科書的に言えば、次の通りとなります。

①定期昇給:事前に決められた昇給の仕組み(言い換えれば賃金カーブ)があり、定期的(通常は1年毎に)に、賃金が増加する。
②ベースアップ:所定の賃金カーブを一定のルールで、上に押し上げる(書き直す)動きのこと。一定のルールには、定率、定額、両者の折衷、その他(特定階層の是正)など、無数の類型がある。
③賃上げ:一般的には、定期昇給やベースアップなど例月賃金の引き上げ額をいう。定期昇給の仕組みがない企業では、賃上げ総財源の中で、定期昇給的なこととベースアップ的なことを行うこととなる。賞与・一時金など臨時給与の増額も含め、名目のいかんを問わず、賃金引上げ額全てを指す場合もあり、今回の経済産業省の調査では、この意味で使用している。

 この調査結果によれば、賃上げをした企業は、全体の65%、その中でベースアップをした企業は36%。裏返して言えば、ベースアップでない方法で賃上げをしたのが64%(全体の中では42%)となっており、その中には、定期昇給のみで賃上げを行った企業もかなりあると思われますが、仮にその割合を半分とすると、賃上げ実施企業の約30%が定期昇給制度のない中で、賃上げを行っていることになります。

 ここで問題になるのが、賃上げの配分方法です。平たく言えば、個々人の賃上げ額をどう計算するかです。
私が知っているある企業(創業後13年、約200人規模のメーカー)では、各人の昇給額(賃上げ額)の大半を各人の現在の給与に比例して計算する方式(スライド方式と呼んでいた)を創業以来続けた結果、従業員の年齢階層別の給与格差(給与カーブの中弛み)が著しく、その解決策に悩んでいました。

 図式化して言うと、18歳高卒初任給を100として、30歳で130,35歳で180、40歳で250という、極端な右上がりの放物線カーブを描いていました。これでも、皆がこのカーブを辿れればよいのですが、問題は、このやり方をしていたら、絶対に先輩の後追いができないことです。即ち、現在30歳(給与130)の者が、5年後35歳の時に給与180になれればよいのですが、このやり方では、絶対に不可能です。35歳180が、5年後、40歳250になれないことも明白でした。

 こんな極端な状況になった背景には、①定期昇給の制度がなかったこと、②工場を新設したため、創立5年ぐらいで人員の規模を拡大し、以降は、退職補充ぐらいで従業員の構成がほとんど変わらなかったこと、③創立直後、石油ショック等があり、20%近い大幅賃上げの時代を経ていたこと 等々の事情がありますが、根本的には、定期昇給の仕組みがない中で、年々の昇給管理が適切でなかったことにつきます。

 人員規模20名以内の企業であれば、従業員一人一人の年齢・勤続、役職、職務能力、執務姿勢等を勘案して、社長がその給与の額(昇給額)を決めるというやり方で、定期昇給の仕組みがなくても、管理できるかもしれません。しかし、これを何年も続け、従業員の満足度(納得度)を満たし続けるには、社長には大変な負担が伴います。ましてや、20名超の人員規模の会社では、至難の業です。

 これが、適正な定期昇給の仕組みが必要な所以であります。勿論、定期昇給制度には、会社の業績にかかわりなく、毎年、一定の昇給財源が必要となり、零細な中小企業には導入が無理だという批判は、よく分かります。しかし、考えても見てください。5年後、10年後、この会社にいて給与の額がおおよそどれぐらいになるか予想もできないようでは、人は、「この会社のために、頑張ろう。」となれるでしょうか。

 要は、制度の仕組みと運営の工夫だと思います。教科書にあるようなきちんとした、ある意味で硬直的な制度でなく、年々の業績要素も加味した、各企業の実態に則した賃上げの仕組み(敢えて定期昇給とはいいません。)は、必ずあります。是非、賃上げの運営に毎年悩んでいる会社の制度作りと運営のお手伝いをしたいと願っています。

特定社会保険労務士   坂本 公則
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